『勝利投手』奇想天外ファンタジーかつリアルな実名野球ドラマOVA!

■監督:芝田浩樹
■1987年
■72分

 

昔なつかし1985年の「たった一度の阪神タイガース日本一!」によって巻き起こった虎フィーバー!
「経済効果400億円」とも言われた尋常ならざる狂熱はアニメ界にも伝播!
高橋春男先生による、実在タイガース選手たちの ぎりセーフかつ ときどきちょいアウトな似顔絵ギャグ漫画『GOGO虎エ門』がOVA化されたりした。

 

『GOGO虎エ門』「阪神タイガース日本一!」を受けて作られた似顔絵ギャグアニメ!
■監督:芝山努 ■1986年 ■30分 「社会人なら野球の話ぐらいできなきゃダメだよ。」などと言う人が時々いる。 私はもういい大人なので、この手の「自分の考えを、従うべきマジョリテ……

 

その紹介記事の中でも書かせて頂いたが、私は野球を全然知らない。
ルールも知らない。
選手も星飛雄馬と山田太郎しか知らない。
そんな筋金入り殿堂入り野球情弱の私でさえ、砂かぶり席のカープファンぐらい かぶりつくようにして観た野球アニメがある。
それがこの『勝利投手』である。

 

 

ある夏のこと。
高校野球に熱視線を送る世間、マスコミ、プロのスカウトたちはざわめいていた。
まったく無名の進学校が、まったく無名の「羽田」というピッチャーの異様な活躍により、甲子園に初出場し、完全試合を成し遂げようとしていたからである!

 

 

目深にかぶった帽子で常に表情を隠し、インタビューにまったく答えず、マスコミも完全にシャットアウトする謎のピッチャー「羽田」の正体とは?
今…
プロ野球界がひっくり返る、日本全土驚愕の、前代未聞の大事件が起きようとしていた!

 

 

「羽田の正体とは?」とか「前代未聞の大事件が起きようとしていた…!」とか、読んで下さった方の興味を欲しがるミステリアスな書き方をしてしまった。
実際、梅田香子(うめだようこ)さんの原作小説は、序盤のこの「ピッチャー羽田の謎」が解けるまでの展開がかなりミステリー風で興味津々なのである。

 

 

しかし、ビデオジャケットの絵を見ればわかるし、公式のあらすじにも普通に書いてあることなので書いてしまうが、謎のピッチャー「羽田」の正体は女の子。

 

 

元プロ野球選手の父を持ち、その才能を受け継ぎ、そして何より野球を愛する女子マネージャー 国政克美(くにまさ かつみ)が、替え玉となって代わりに投げていたのである!『劇場版タッチ 背番号のないエース』もビックリの入れ代わり!

 

 

『勝利投手』とは、そんなビックリ美少女 克美ちゃんが中日ドラゴンズにドラフト1位で指名され、数々の古いタブーや規制を完封し、日本初の女性プロ野球選手となり、ピッチャーとしてマウンドに立ち、大旋風を巻き起こす、奇想天外ファンタジーかつリアルな実名野球ドラマOVAである!

 

 

そう!実名!
冒頭で書かせて頂いた通り、私は野球を知らない。選手の名前も里中くんと上杉達也しか知らない。
なので残念ながらほとんどわからなかったのですが、本作には実在の野球選手がそのまんまの顔と実名で大勢 出場なさっているもよう。
野球ファンの方は、私なんかより かなりニヤリできるのかもしれない。

 

 

そんな中でも、私でもわかったのは星野仙一さん!
ヒロイン克美ちゃんをプロ野球の世界へ導く超重要な役で出場し、苦しい時はシブい助言を与えるファインプレーを何度も披露。

 

すごい顔面力

 

プロにスカウトするためJK姿の克美ちゃんを熱心にピッタリとマークしてたらプロ変質者とまちがわれ、落ちてた石ころを精密なストレートで投げつけられ、見事に手の甲にデッドボールという珍プレーまで飛び出す燃える男っぷり!(しかし、この時の「石ころ」が後に感動的な伏線となってダイヤモンドに輝くのだ!)

 

 

星野さんだけでなく、他のキャラたちもなかなかの精鋭が並ぶ。
克美ちゃんに対して無関心なようで実はゾッコン子煩悩な、父親にして最大の好敵手的ラスボス、国政道朗。

 

 

古川登志夫さんのナイス頼れるお兄ちゃん演技が観る者のハートをキャッチし、サウスポーヒロイン克美ちゃんと公私ともにバッテリーを組むことになる、及川達也。

 

 

女の子ながら厳しいプロ野球選手の世界に飛び込んでいった愛するかつての仲間を、細やかな思いやりで見つめ続ける羽田たち元チームメイトたち。
最後の試合にあわてて必死で駆けつけ、クライマックス感を盛り上げてくれる野球部顧問の先生などなど…みんなさわやかエンタメ一軍キャラぞろい!

 

 

そして何と言っても漫画アニメ球界史に名を残すピンクのサウスポー!
少年の負けん気と少女の可憐さを あわせ持つヒロイン、国政克美嬢の魅力にきりきり舞い!

 

 

演じた片石千春(かたいし ちはる)さんの、ときどき飛び出すぶち変な広島弁がぶちかわええ。
迫りくる肉体的限界の時を知りつつも投げ出さず、投げ切ることを選び、自分のすべてを捧げ、魂を込めた刹那の投球は、きっと皆さまのハートにもストライクまちがいなしだ!

 

 

汗ばんだ髪の毛、赤く染まる頬、夏の木漏れ日、球場を埋める観客たちなどなど…
さすが劇場公開されただけあって、ディテールの描写まできちんとこだわった作画がとても美しい。

 

 

臨場感あふれる背景美術もお見事!

 

 

ど真ん中にぶち込むにしても、必ず展開に変化をつけてハラハラさせる西浦あかね(雪室俊一さんの別名義)さんの脚本も巧みの技あり。
80年代の邦楽シーンを毎度おさわがせしていた人気バンドCCBや、ボーイッシュなミラクルガール永井真理子さんの歌も『燃えよ!ドラゴンズ!』ばりに作品を熱く盛り上げる!

 

つまりこの『勝利投手』。
クオリティ的にも見事に勝利を成し遂げた、日本野球アニメ界の殿堂入りエースと言っても過言ではない作品なのである。

 

 

なのになぜか!
今のところ円盤化も配信もなし!(2022年6月29日現在)
登場する球団や選手が実名なのが版権的に何か問題なのだろうか?
このまま埋もれていってしまうのはあまりにも悲しい。
もしもオークションなどで中古のVHSがあがっていたら、ぜひナイスキャッチして頂きたい良作です!

 

 

  • オススメ度…79/100
  • 無料動画の配信…なし
  • 有料動画の配信…なし
  • ソフトのレンタル…なし
  • ソフトの販売…中古のVHSがオークションなどでたまに。見かけたらぜひナイスキャッチを!