■監督:石黒昇
■1989年
■50分
私の柳沢きみお先生作品との出会いは、小学校低学年の頃。
父が脱サラして始めた小さな食堂に置いてあった週刊少年マガジン。
そこでちょうど連載中だったのである。
あの、知る人ぞ知る暗黒青春トラウマンガ。読む不吉。『朱に赤』が。
主人公は、遠くに城が見える、とある田舎町に住む、気の優しい男子高校生。
どことなく感じる家族への謎の違和感…何か言いたげなイトコの女の子…彼と仲の良い女生徒につきまとう視線…降り続く雨…
平凡に見えつつも ぬぐい去りがたい不吉さをはらみつつ日常が過ぎていき、「ある事件」をきっかけに主人公は真っ逆さまに転落していく!
何せ第一章のタイトルが「破滅」である。少年マガジンなのに「破滅」。まだ第一章なのにもう「破滅」。
内容のほうも、精神的に追い詰められた主人公がガスを部屋に充満させて母親を殺そうとしたり、イトコとセックスしてしまったり、そのイトコが実は○○○○だったり、暗黒ATG映画もドン引きシーンの連続。
同じ高校生でも同時期に連載してた、身長5メートルぐらいの番長が元気いっぱいタンカーを持ち上げたりする『ガクラン八年組』とえらい違いである。(これはこれでとんでもないが)
そして地獄巡りのような物語の終盤…作品タイトル『朱に赤』の意味が浮かび上がる あの1ページの戦慄…
その時の週刊少年マガジンの連載作品の中でも明らかに異彩を放っていた…っていうか『朱に赤』のとこだけ赤っていうかブルーな感じになっていた。
チビッ子だった私はこの作品がもう怖くて怖くて仕方なかった。でもそれでもなぜか読むのをやめられなかった。
読み終わった後は必ず主人公と同じく反射して真っ白の眼鏡の下にゲッソリ縦線が入るので、前述した『ガクラン八年組』や『1・2の三四郎』を読んで心のリペアに努めていた。
もし興味を持たれた方はkindleなどでお読みになってみるとよい。(読み放題のラインナップにあるのでKindle Unlimitedに入っている方は 0円 で読めます)
大人になっても、今読んでも。
何か致命的な失敗をし、
何もかも捨てて逃げ出し、
人、物、音、場所、金…この世のすべて、何もかもに追い詰められ、
部屋に逃げ込み、閉じこもり、西日の差すうだるような暑さの四畳半で身動きできず、水道の雫の落ちる音をジッと聞く午後を過ごしたことのある方は、きっと身につまされるだろう。
いや!たいていの人はもっと普通に明るく生きれてるのかもしれない!
『青き炎』は、そんな私のトラウマスター柳沢きみお先生が、週刊ヤングサンデーに連載しておられた作品。
野心家の少年が、類まれなルックス、セックス、インテリジェンス、バイオレンスをフル活用させて女を堕とし、ライバルを蹴散らし、バブル期日本社会の食物連鎖の頂点を目指してノッシノッシとのし上がっていく。そしてその果てに彼が見たものは…という きみお版『死の接吻』な物語。
柳沢きみお節フルスロットルで、野心に乗って突き進むこの青春ピカレスクの快作を石黒昇さんがOVA化。
独特な柳沢先生の絵柄だけでなく、ストーリーのスピード感も原作そのままに再現。テンポよく進み、人間味を一切見せない超人思想の塊みたいなイヤな主人公から目が離せない。
「しかし、さすがにあの原作を50分に収めるのは難しいのでは…?」と思っていると、やっぱり途中で終わってしまう。
そして、そう!もちろん続きは作られていない。「80年代OVAあるある」である。
しかし、いけ好かないライバルの一人を文字通り蹴落とし、手中に収めた女を激しく抱きながら、己の内に燃え続ける青き炎に煽られるように戦慄のマニフェストをして終わるこのラストには、これはこれで到達感、爽快感があり、尻切れトンボ感はそんなにない。1本の作品としてなかなかキチンとまとまっていると思う。
原作はちょっとビックリするような狂気の結末を迎えるので、続きを知りたい方は、そちらをぜひ。
そして…
地獄を見る覚悟のある方は『朱に赤』もぜひ…
- オススメ度…65/100
- 無料動画の配信…Youtube
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…中古のVHS