■監督:西沢信孝
■1986年
■52分
『湘南爆走族』と『BE-BOP-HIGHSCHOOL 』の爆発的大ヒットを機に80年代はヤンキー漫画戦国時代に突入した。
さまざまな個性のツッパリたちが、ありとあらゆるマンガ雑誌で、人気を獲得すべく誌面狭しと抗争を繰り広げていた。
ヤンキー度100%ゼロであるシャバ僧の番格のような私はこのブームに眉をひそめ、こっそりガンくれていた。
「どれもこれも不良を美化しすぎでは?」と。
自分の周りにはマンガに出てくるような「かっこいい不良」などまったくいなかった。
徒党を組み、暴力をチラつかせ、人の恐怖心につけこんで悪事を働き、それをチビッ子みたいな罪悪感の無さで心底楽しむようなヤツらばかりであった。
特に中学は酷く、グラウンドをバイクが走り回り、爆竹と火災報知器が常に鳴り響き、廊下では不良たちがシンナー吸いながらラジカセを爆音でかけて踊り、もう先生たちも何も注意しない…というケンシロウのいない『北斗の拳』のような荒廃した世界であった。あんな場所に通うのが「義務」って…
そんな場所にジードに襲われる村人の顔でビクビク通っていた私は、ヤンキー文化が「かっこいい」ともてはやされるムードや、ぞくぞく湧いてくる暴走族&不良マンガ軍団に反発と違和感を抱いていた。
「不良なんか、こがあなカッコええもんじゃないんじゃ〜!」と。
しかし、そんな私もこのヤンキーブームのトップを爆走する『湘南爆走族』と『BE-BOP-HIGHSCHOOL』はなぜか好きだったのである。
『湘爆』は「爆笑ギャグ」なのはもちろん「青春ヤンキーファンタジー」だと思っていた。
なので「こんなタバコも吸わないカツアゲもしない不良なんかおらん!」と思わなくてよかった。
『BE-BOP-HIGHSCHOOL』は不良マンガのパイオニアたる強い別格感と、独特のゆるさと、一線は超えない粋な感じがあった。
だからこの2作は好きだった。
そしてこの頃の『湘爆』の人気は凄まじく、中学のころ教室で、男子はもちろん女子の皆様まで回し読みをしているのを見た。
また、単行本の発売日に、爆走チャリを街角の本屋に停め、あわただしく駆け込んできたちょっとヤンチャな感じの汗だく男子が「湘爆の最新刊ありますかっ⁉︎」と息を切らしながら店主さんに聞いてるのを目撃したこともあった。
そして湘爆最新刊はなかった。店主さんは申し訳なさそうに売り切れを伝えていた。
私は買いたてホヤホヤのそれをソッとカバンに収めたのであった。
そんな超人気作品ゆえ、当然、80年代OVA界へもでっ発!
90年代まで駆け抜けてなんと全12作もリリースされた。
このシリーズ、基本的には、原作でたまに描かれるシリアス回を中心に据え、他の数々のエピソードで肉付けし、アニメ版オリジナルの演出もちょいちょい加えるという構成。
そして作品内の要所要所で当時の人気ミュージシャンの楽曲が流れる。
これはつまりタイアップだと思うが、どれもとても効果的な使われ方をしており、イヤな感じはまったくしない。
そんなOVA版湘爆の記念すべき旗揚げ第1作が、この『残された走り屋たち』である。
横須賀No.1チームのハッスルジェットは解散を表明。
最後の集会で湘南方面を走るため、総長の真紫 準(まむらさき じゅん)は江口たちにスジを通しに来る。
同じ匂いを感じ、初対面で意気投合する江口と真紫。
しかし、それを聞きつけた地獄の軍団の権田は、湘爆をライバル視するあまり、せこすぎる「ある謀略」を図り、江口と真紫が激突するよう仕向けるのだった…
元になる原作は、第3巻収録の「横須賀ハッスルジェット」。
それに、ヒロイン津山さんの誕生日、権田と江口の公道レース、そして湘爆メンバーたちの出会いなどなど、印象的なエピソードを巧みに組み合わせ、湘爆初見の方でも入りやすい丁寧な工夫がされた構成が見事。
「残された走り屋たち」というオリジナルなサブタイトルもシブい!
(ちなみにこのエピソードの「せこい権田」、後に別巻で描かれる、昔の頃の「若いのにモノが分かってるシブい権田」と全然キャラが繋がらない!)
このOVA版湘爆シリーズはいつもアバンタイトルがすばらしく、再生早々にグッと心つかまれたものであるが、本作も然り。
なめらかな美しい作画で紫色の道路を走る「PURPLE HIGHWAY OF ANGELS」な湘爆が、何だかほのかな切なさを心に残し、静かに去っていく。(メンバーの顔が見えないのもイカす!)
不思議な情緒のある名アバンタイトルだ。
また、キャラクターたちを支える背景美術もすばらしい。
江口たちの青春のステージ、湘南の風景が美しく胸にせまる。
元になる原作が、湘爆メンバーのキャラがだんだん立ち始め、吉田聡先生がギャグだけでなくシリアスもいける凄まじい漫画家に明らかに化け始めた頃の神回。
いつものドタバタと違う凄みのある暴走族描写や胸熱ドラマチックな展開にみんな衝撃を受けたものである。
そのアニメ化なので感動は保証付き。
しかし、バッチリなタイミングで『Ride on Dream 走り屋たちのテーマ』がかかる、クライマックスのあの瞬間の爆発的な大感動はアニメ版ならでは。何度観ても津山さんや雅ちゃんと一緒にオッサンの私も涙!
色んなわだかまりや葛藤をサッパリと洗濯できたキャラクターたちと共に、きっと観た人みんな、とびっきりの笑顔で最高のカタルシスを味わうことができるだろう。(最後の最高の集会に参加できなかったケガしたジェットの2人はかわいそうだが!)
ただ「迫力」という点で、原作よりもちょっとおとなしく感じてしまうところもあった。
テンションがアガった江口の顔がモンスター化する、全マンガ読みがビビッた、吉田聡先生必殺のあのデフォルメ表現や、真紫の強さがどれだけヤバいかわかる有名な「壁ビキビキシーン」などの迫力は、やはり原作のほうがとんでもなく強えと感じた。
ちなみに当時、この作品、広島ではなぜか、ある平日の夜7時半ごろ、突然テレビ放映されたのである。(あれはなんだったんだろう?何かの穴埋め臨時的な放映だったのだろうか?)
翌日、ヤンキーのKくんたちが「昨日、テレビで湘爆やっとったじゃろ!観た?」と、もちろん話題に。
教室の片隅で密かに耳を傾けていたのだが「なんか…こう…ちょっと違うんよのう…」と、Kくんはちょっとお気に召さないところがあるようであった。
オタクとヤンキー、住む世界は違えどアニメ版湘爆に感じたちょっとした不満点は同じだったのかもしれない。
また、やはりどうしても「このこと」に触れぬわけにはいかない。
本作では主人公の湘爆リーダー江口洋介の役を、なんとヤンクロックの伝説のパイセン、横浜銀蝿の翔さんが襲名!
なぜだろう?
「ヤンキー役にモノホンのヤンキーを!」という話題作りだったのだろうか?
男一匹、倉井スエ!
シメられるのを覚悟で正直にハッキリと申し上げるが、翔さんの演技にはやはりところどころギョッとするところがあった!…ように思う…と私じゃなくて失礼などこかの誰かが言っていた。
しかし私が思うに、塩沢兼人さん、鶴ひろみさん、富沢美智恵さん、戸田恵子さん、屋良勇作さん、銀河万丈さんなどなど、ものすごい主役級のスター声優の皆様に囲まれての主役デビュー!
翔さん、きっとものすごい大変なプレッシャーだったのではないだろうか?
しかしせっかく頂いた仕事。ましてや湘爆。
「ここはブルってケツまくるわけにはいかん!」と果敢にチャレンジなさったのではないだろうか?
このツッパらかりっぷり。推せるではないか。
それに改めて観るとそんなに悪くない。初々しさと荒々しさが混在する独特な味わいがあってなかなか良い。
ちなみに、青春映画の名作『実写版 湘南爆走族』では、翔さんは権田役で出演。
これは翔さん以外考えられないぐらいのハマりっぷりであった。
そして本作で石川晃を演じた塩沢兼人さんが、このあと2代目江口洋介の役を襲名。
最強チームの名をOVA界にも轟かせていくことになるのだ!
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