『燃える!お兄さん』 テレビ版よりも過激にやるじゃない!

『燃える!お兄さん ビデオオリジナル①』
■監督:森健
■1989年
■32分
第1話 「暴走ダック・ニコルソンの巻」
第2話 「透明お兄さんの巻」

 

『燃える!お兄さん ビデオオリジナル②』
■監督:殿勝秀樹
■1989年
■32分
第1話 「開店ずし大食い勝負の巻」
第2話 「欲のかたまり文化祭の巻」

 

マンガ界には「人気マンガ家のアシスタントを務め、研鑚を重ねていた方が、読み切りを載せてもらい、そしてついに連載デビュー!」…という黄金のまんが道がある。
まつもと泉先生のアシスタント経験を経て、デビュー作にして魔法のようなウル技で描かれたファンタジー巨編『BASTARD!! 暗黒の破壊神』で全ジャンプ読者をビックリ飛び上がらせた荻原一至先生などがそうだ。

 

この場合、当然、絵柄がお師匠さんに似る。
80年代黄金期の少年ジャンプで『燃える!お兄さん』の連載が始まった時、「む!この人はさては『ハイスクール!奇面組』の新沢基栄先生のアシスタント出身に違いない!絵がなんか似とるし!」と子供心にピンと来た。
そしてまさに!
お師匠さんの大ヒット作『ハイスクール!奇面組』にも負けぬ破壊的かつテンポのいいギャグが、枠をぶち破りそうなほどページせましと詰め込まれた、ギャグマンガ好きな少年の心が燃える楽しい作品だった。

 

 

また、連載終盤では見開きページで『ウォーリーをさがせ』風のクイズの出題、間違い探しの挿入、舞台上のコントに見立てた演出などなど…『天才バカボン』の時の赤塚不二夫先生ばりに天才的にアヴァンギャルドな試みも数多くしておられた。

 

そして主人公ケンイチの「アウ」「なのだ」はもちろん、何と言ってもロッキーくんの「やるじゃない」である!

 

 

この何でも語尾に「~じゃない」と付けるロッキーくんの口癖はたちまち少年たちの流行語になった。
クラスで「少年ジャンプ係」を務めていた私が、月曜の朝、クラスメイトたちの前にスッとジャンプを差し出すたび「やるじゃない」と、マジメな働きっぷりを誉められたものである。
そして受け取ったみんなはもちろん「読むじゃない」と言ってから読み始め、授業中もやめてくれず、普通に先生に取り上げられたりしていた。ダメじゃない。

 

個人的には、ホントは絵がうまい佐藤正先生の画力がシリアスに炸裂した映画オマージュたっぷりの扉絵や、連載マンガが単行本になった時のお楽しみ「オマケコーナー」のイラスト付きコラムなども好きであった。

 

 

特に、このサイトでも紹介させて頂いたOVA『ブラックマジックMー66』を佐藤先生も絶賛しておられたのは「アウ~!佐藤先生も観ておられたのだ!うれしいじゃない!」と、何だかすごいうれしかったナ!

 

 

人気に火がついた『燃える!お兄さん』は、あっという間にテレビアニメ化。
ブルーマンデーでズタボロに傷つき疲れ果てた心を、夜の7時半に楽しく癒してくれた。

 

特に「欲しいものを見つけたなら照れたりしなくていい」という歌詞が、宮崎事件で迫害されていた当時のオタクの心に優しく刺さる石川優子さんの歌と、おなじみの愛すべきあのキャラたちのカットが曲に合わせてタイミングよくインサートされていく素晴らしい演出がスパークしたオープニング『ドリーミー・ドリーマー』のあの多幸感と言ったら!
このたびYoutubeで久々に視聴してなぜかボロ泣き。
あまりの良さにこの記事の準備を中断して10回ぐらい連続視聴。PCのキーボードをビショビショにしてしまった。

 

 

ところで…
「なにいってるのだバカ!! おっさんはもう先生じゃないのだ」
「先生じゃなきゃタダの人だからなにをいってもかまわないのだ!!」
…などの用務員さんに対するセリフが問題視され、回収騒ぎになったいわゆる「燃える!お兄さん職業差別事件」もそうだが、本作はけっこう何気に過激なギャグも多い。
(この件に関しては個人的には「マンガの登場人物は別に正しいことを言わないといけないワケじゃない。道徳の授業じゃないんだからなにを言ってもかまわないのだ!!よく読んだら別に佐藤先生が差別してるってことでもないし!」と思う。)

 

テレビではもちろん弱火だったこのテイストのギャグが、放映後にリリースされたOVA版では完全燃焼!
中学生のケンイチが無免で車を爆走させて屋敷に突入!破壊の限りを尽くしたり、傷ついた老執事をアヒルのダックくんが足蹴にしたり、透明になったケンイチがフリチンで無銭飲食しまくったり、フリーダムに景気よく暴走している!

 

 

「アニメの製作に興味がある」と公言しておられた佐藤先生ご自身が絵コンテを、エヴァでおなじみの摩砂雪さんが作画を担当なさったオープニングからして凄い。
人の頭から、ガスコンロ、車、船、そしてロケットまで、ありとあらゆるものがスイッチオンでひたすら爆発していく、破壊のイメージに満ちた異様なオープニングになっている。
「妹にしたい80年代アニメキャラ投票」のようなものがあればグランプリ間違いなしの良い子、雪絵ちゃんにいたっては、爆風に巻き込まれ、ドロンジョ様みたいにオッパイまでポロリ!
ガーン!さすが何でもアリの80年代OVA!
テレビ版よりも過激にやるじゃない!

 

 

  • オススメ度…第1巻 70/100  第2巻 72/100
  • 無料動画の配信…第1巻 Youtube  第2巻 Youtube
  • 有料動画の配信…なし
  • ソフトのレンタル…なし
  • ソフトの販売…中古のVHS