■監督:出崎哲
■1990年
■60分
魅惑の名作OVA『吸血鬼ハンターD』のテーマ曲として作られ、80年代アニメファンのお気に入りMY SONGとなった『YOUR SONG』!
月曜ジャンプアニメ『シティーハンター』のエンディングに使われ、ノリノリのタフなカッチョ良さでオリコンチャートのベストテン・ランキングをワイルドにゲットした『Get Wild』!
アムロとシャアのファイナル・タイマン映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌として、今なお時を超えて愛され続ける『BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)』!
このようにTM NETWORKは とてもアニメと関わりの深いバンドだったと思う。
また、アルバムのタイトル名が『CHILDHOOD’S END』など、アーサー・C・クラークの古典から取られていたり、生み出された作品にはいつもSFファンタジー色がステキに にじんでいた。
そのため、普段はあまりロックとか聞かないタイプのSF・アニメファンにも、とても人気の高いグループであった。
当時、「宮崎予備軍」の愛称で呼ばれていたワシ界隈にもワイワイたくさんファンがおり、「TM NETWORKのTMって、タイムマシンの略らしいで!」とか「いや!ホンマはバンドが結成されたトーキョーの多摩市の略らしいで!」など、みんなどっかで見聞きしてきた「TM都市伝説」をエッヘン披露し合っていた。(ホントはどっちも正しいらしい)
そんなTM NETWORKが人気絶頂の時にリリースしたアルバム『CAROL』は、当時の邦楽シーンにセンセーションを巻き起こしていた。
「キャロルという少女が、異世界《ラ・パス・ル・パス》に召喚され、出会った仲間たちと共に、音を盗み世界を滅ぼす恐るべき魔王《ジャイガンティカ》と戦う!」というファミコンRPGのような物語が紡がれていく、TM NETWORKのファンタジー色が満開の、当時のメジャー邦楽シーンでは珍しい斬新なコンセプトアルバムだったからである。
そして、なんとライブもその通りに構成!
ファンタジックなセットが組まれたステージ上に、キャロル役の美少女を始めとする役者さんたちが現れ、演技を披露。
そして物語の展開に合わせてTM NETWORKが演奏するという、大胆なミュージカル仕立てであった。
確か当時、ライブツアーのCMか何かで、チラリとその一幕がテレビで流れ、「わ!全然ふつうのライブとちゃう!演劇みたい!」とめっちゃ驚いた記憶がある。
私の友人のY君は「今回のTM NETWORKってなんか変…ライブも歌を聞くんじゃなくて演劇みたいでオモローなさそう…」とグチグチ愚痴っていた。
Y君が好きだった女子のUさんに私がそのことを「こんな感じでY君がTMの新作の悪口言うとったで。」と さっそく密告すると「あいつ何を言うとるんね!今回のアルバムはその演劇っぽいところが ぶちええんじゃないの!」とぶち怒っており、SUE NETWORKのせいで仲が悪くなっていた。
それはともかく狭いワシ界隈だけではなく、多くのファンの皆さまの反応もけっこう賛否別れていたと思う。
しかしメジャー邦楽シーンのトップにいるバンドが、もしかすると観客総ポカン顔になるかもしれないデンジャラスかつアヴァンギャルドなチャレンジをしたのは、やっぱり絶対すごい!
アルバムには『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主題歌『BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)』や、宮沢りえさん主演の角川映画『ぼくらの七日間戦争』のテーマ『SEVEN DAYS WAR』なども普通に途中に収録されており、そんなにゴリゴリのコンセプトアルバムという印象は個人的には感じなかった。…っていうか『逆シャア』好きな私としてはお得だし、ドラマチックなめっちゃいいアルバムだった。
ビジュアル・ディレクションとして、ガイナックスの前田真宏さんや貞本義行さんの名もあり!やっぱりTM NETWORKはアニメに関わり深し!
興味のある方はぜひ!
『CAROL』には、アルバムのコンセプトをより具体的なストーリーにした小説版もある。
書き下ろしたのはTM NETWORKのメンバーである木根尚登さん。
当時、こちらも大変な話題になり、書店の特設コーナーに平積みされているのをよく見かけたものである。
装丁も非常に凝っており、キャロルが異世界《ラ・パス・ル・パス》に迷い込んでいる章では、ページの四隅にファンタジックな装飾が描かれている。ガイナックスの佐々木洋さんが手がけた挿絵も美しい。
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』やミヒャエル・エンデの『モモ』『はてしない物語』など、ファンタジックな児童文学が好きな方にはオススメ!
そしてOVA版の『CAROL』は、木根さんのこのベストセラー小説を基にして作られた。
キャラクター原案は、同人誌とメジャー誌の境界線など軽く高く飛び越え、フリーダムな幅広い活躍で多くのファンをあっという間に獲得しまくった、80年代日本マンガ界に現れたスーパースターの1人、あの高河ゆんさん。美しいVHSのジャケットも手がけておられる。
監督は出崎ブラザーズの兄、確かな演出力を持つ頼れる匠の出崎哲さん。
原画には大張正巳さん、知吹愛弓さん、影山 楙倫さんも名を連ねる超強力なパーティ。
なので絵はとても美しい。
そして音楽はもちろんTM NETWORK!
アルバムの収録曲がここぞのタイミングでバンバンかかりまくるので「Don’t stop dancin’ !Don’t stop the music!」とファンはノリノリでアガること間違いなし!
また、『CAROL』という物語にはTM NETWORKのメンバーをぞれぞれイメージした、フラッシュ(宇都宮隆さん)、クラーク(小室哲哉さん)、ティコ(木根尚登さん)というキャラクターが登場する。
原案の高河ゆんさんの繊細な線が活かされた麗しいキャラクターデザイン自体も大きな見どころだが、中でもキャロルと終盤いい感じになる戦士のフラッシュは、なんと宇都宮隆さんご本人が声優チャレンジ!
高ポイントの初々しさと凛々しさを同時に兼ね備えるという稀有なキャラステータスの美剣士っぷりに、キャロルならずともハートを刺されるに違いない!
ところで本作はストーリーが「たったひとつの勝利」に向かって なかなか気持ち良く健全に まあまあまっすぐ進んで行く。
行く手を阻む悪ものモンスターたちもそんなに悪くない。あんまり怖くない。
同じ異世界ファンタジーOVAでも『くりいむレモンPART3 超次元伝説RALL』とか『テレパシスト愛Q315』みたいにヒロインを触手でぐちょぐちょエロ酷い目に合わせたりしない。
なので中にはもしかするとちょっと物足りなく感じる方もいるかもしれない。
しかしこれは、ディズニーランドのライドアトラクションのように、多くの方が安心してドキドキハラハラできる親切設計な作品とも言えるだろう。
わずか1時間の作品だが、ゆきて帰りし物語感は2時間越えのハリウッド映画なみにたっぷり!
昔なつかしOVA全盛期の終わりに創造されたこのファンタジー世界へ、タイムマシン(TM)ネットワークに導かれ、冒険に出かけよう!
- オススメ度…68/100
- 無料動画の配信…Youtube
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…DVDあり!