『機動警察パトレイバー(アーリーデイズ)』 心を捕らえられた!この警察に!

 

「なんか、今度、ものすごい大がかりなロボットアニメのプロジェクトが始動するらしい!」

 

まだ、「オタク」という言葉がそんなには市民権を得ていなかった頃。
『究極超人あ~る』を大ヒットさせた ゆうきまさみ先生の新作『機動警察パトレイバー』が発表された時、多くのマンガ&アニメファンたちが歓喜でどよめいた。

 

なにしろみんな大好きなのに、当時なぜかマンガではあまりなかったロボットもの。
警視庁のロボット=レイバーだけに「パトカー」ならぬ「パトレイバー」。このシャレの効いたネーミング。
パトランプ装備はもちろん、警棒&拳銃を握りしめた「犬のおまわりさん」ならぬ「ロボのおまわりさん」なたたずまい。
デザインしたのは、宇宙世紀からバイストンウェルまで、様々な世界で縦横無尽に大活躍しておられた出淵裕(いずぶち ゆたか)さん。

 

 

そしてマンガだけでなく、なんとOVAも同時展開!
キャラクターデザイン=高田明美さん、監督=押井守さんという、うれしいうる星タッグ!

 

 

これで「どよめくな」というのはそりゃ無理ってものである!
今で言うメディアミックス。
この、今まで見たことのない大胆で大がかりなプロジェクトの始動に、マンガ&アニメ界にお祭り前夜のようなワクワク感がみなぎっていた。
みんな雑誌や原作の掲載誌「週間少年サンデー」で続々小出しにされる続報にゾクゾク小躍りしながら祭りの始まりを待った。

 

そして満を持してついに掲載された『機動警察パトレイバー』の第1話。
ラストの「こ…これは…趣味の世界だねえ…」という、ヒロイン・野明(のあ)の、あのセリフ通り!
ワクワクするよな趣味の世界で、光画部みたいな独特ゆるゆる感満載で走り出した愛すべき特車二課に、みんなガッチリと心を捕らえられたのだった。

 

 

なぜかよく覚えているのが、当時、クラスメイトのI君という子が「サンデー読んどるけど、パトレイバーって1回も読んだことがない」と言っていたことだ。
体育祭や球技大会などのスポーツ行事のたびに真心を込めて雨乞いをしてたような運動行事ヘイターの私と違い、I君は柔道部所属のスポーツマン。
まあまあ普通にマンガは読むけど、別にマニアではない。
ジャンプ、マガジン、ヤンジャン、ヤンマガ…そしてサンデーも読んでるけど好きなのはヤンキー野球マンガ『ぶっちぎり』というタイプ。
『パトレイバー』は大ヒットしたけれど、I君のような層の人たちまで幅広くメッチャメカ狂いにさせるタイプの作品ではなく、やはり、後に「オタク」と呼ばれる私のような人たちの「趣味の世界」だったような気もする。

 

マンガ、OVA、OVAの第二期、テレビアニメ、押井守監督の最高傑作とも名高いあの劇場版二作。
CG技術の爆発的進化により実現した、80年代当時からすれば「まさか」の実写版。
そしてさらに「まさか」の実物大パトレイバーの起動。
フィギュア、ゲームなどの数え切れぬ数々の関連グッズ…
この大いなる趣味の世界は、まだまだこれからも広がり続けるのかもしれない。

 

 

以下、後に「アーリーデイズ」と呼ばれることになった一番最初のOVAシリーズ全7作を簡潔ではあるが紹介させて頂く。
様々なメディアで展開され、それぞれが独自の魅力を持つ『パトレイバー』だが、私が一番好きなのはご多分にもれず、あのシリアスムード全開で押井ワールドが展開する劇場アニメ版の2作品である。
しかし、原作版やこのOVA版の独特なゆるさ明るさが前フリとして効いたギャップ萌えのような面もあるのかもしれない。

 

 

 

『機動警察パトレイバー(アーリーデイズ)』

第2小隊出動せよ!

■監督:押井守
■1988年
■30分

 

記念すべき第1話。
世界観を説明するシブいアバンタイトルからの突き抜けて明るい80年代アイドルソングのようなオープニング『未来派ラバーズ』!
これでもう開幕早々さっそくブチあがる!

 

 

「ピタリ抱かれりゃ ピカ一きれるアルフォンス」
よくありがちな「作品内容と全然関係ないただのタイアップソング」と違い、ヒロイン・野明の愛機《アルフォンス》に対するいかれたメタメタメッチャメカ狂いっぷりをきちんと込めた歌詞がイイ。笠原弘子さんの歌声もカワイイ。

 

さすがの巧みなじらし演出からの満を持してパトレイバー登場!…と思ったら激しく首チョンパ&腕チョンパ。
第1話なのにマジンガーの最終話ばりにボロボロに破損するのでビックリした。
そしてトドメはアレ!ロケットパーンチ!
期待通りの楽しいキャラ紹介回。

 

 

 

 

ロングショット

■監督:押井守
■1988年
■30分

 

みんなの憧れ!特車二課の花!
帰国子女の香貫花・クランシー(かぬか・クランシー)登場回。
空港に降り立ち、髪が花びらのように風にフワフワとなびく神作画の麗しいお姿に、遊馬ならずとも見とれることまちがいなし。

 

 

ニューヨーク市長の来日にあたり、予想される爆破テロに我らが特車二課がまったり備える!…と思いきや急転直下、寿命が縮む時限爆弾解体サスペンスに。
「切るべきコードは赤か?青か?」
どちらにしろ行くしかない究極2択のでっかい賭けをせまられた遊馬が選んだのは…?

 

冒頭の「んなアホな!」な空飛ぶパトレイバーや、都庁前にたたずむ謎のおばあちゃんなどが伏線となって後に効いてくる展開、そしてタイトル「ロングショット」の意味が浮かび上がる冷汗ビッショリのクライマックス。脚本家・伊藤和則さんの職人技が冴える!

 

 

 

 

4億5千万年の罠

■監督:押井守
■1988年
■30分

 

夜の闇に包まれたベイエリアで、車が消失した。
まるで何か「大きな手」に捕まれて海に引きずり込まれたかのように、停めてあった場所にはタイヤの跡が「横向き」についていた。
乗っていた女は失神状態で発見された。いったい彼女は何を見たのか?
そしてその頃、付近の常連の釣り人はこうつぶやいていた。
「最近、ヒラメが釣れなくなった…」

 

芹沢博士のそっくりさんが登場したりする『ゴジラ』とか『サンダ対ガイラ』などの怪獣特撮映画オマージュ回。

 

 

ゴジラ(?)の咆哮に合わせ次々提示されるムチャクチャだが、なんかもっともらしい作戦説明が楽しい。千葉繁さん演じるシゲが、押井印のセリフをうる星ぐらいしゃべって、しゃべって、しゃべりまくる!
怪獣映画の定番メソッド「じらし演出」の果てについにちょっとハッキリすぎるぐらい姿を現した「そいつ」と、まさかのオチにビックリすべし!

 

 

 

 

Lの悲劇

■監督:押井守
■1988年
■30分

 

パトレイバーが街の真ん中でムチャクチャな発砲!(もちろん太田のしわざである!)
これにより後藤隊長から「おまえらが乗っとるのはグレートマジンガーか?ダンガイオーか?」の思わずニヤリな説教を受け、特車ニ課のみんなは《レイバーの穴》での再訓練を命じられる。
しかし人里離れたその地で起こったのは…
真っ赤に染まる湯船。
蛇口からあふれる髪の毛。
朽ち果てた死人が乗る謎のレイバー。
そして悲しげな顔の少女の幽霊…
陸の孤島で次々と起こる怪異の謎を解くべく、名探偵・香貫花の推理が冴える!

 

 

異色のホラーミステリー回。(何気に女性キャラの「入浴サービス回」でもある)
異色にして出色。
夕闇の不吉さ。
老人が語る過去の悲劇の悪夢感…
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』などでも全開だった、本当は怖い押井守監督の極上ホラー演出が冴えまくる。(しかし基本的にはゆる楽しい!)

 

少女の幽霊がつぶやく「撃たないで…」という言葉が効いてくる鮮やかすぎる幕切れにミステリーファンならずとも見事に「やられた!」とハートを撃ち抜かれるに違いない!

 

 

 

 

二課の一番長い日(前編・後編)

■監督:押井守
■1988年
■2話とも30分

 

当時、前編+後編で構成されたこの一番長い回の素晴らしさを誉めない人は、たぶんいなかったんじゃないだろうか。
ラストにふさわしい文句なしの神回。(実際はこの後、もう1本作られることになるが)

 

年の瀬を迎えた真冬の東京で自衛隊によるクーデターが発生。
その首謀者は特車二課の後藤課長とワケありの古い知り合いだった…

 

 

蕎麦好きでムズかっこいいセリフをバンバン決める押井印全開の孤高の中年テロリストが核のボタンを握り緊張を高めまくる中、日本各地に帰省していた二課の面々が、計画を阻止すべくアッセンブル!
これがお祭り的にアガる。各キャラにキチンと見せ場が用意されているのも丁寧で愛がある。

 

特に「とぼけているよでホントはかしこい」後藤課長の魅力が静かに爆発。
初見の方はきっと「上司にしたいアニメキャラ」のランキング1位を塗り替えられることになるだろう。

 

 

インテリジェンスとバイオレンスの合わせ技で電光石火でトドメを刺し、ベタベタした感傷など跡形も残さぬような鮮やかすぎる幕切れにも参った。うなった。
こーゆー話やらせたら押井守さんやっぱ最強!勝負あった!

 

 

 

特車隊、北へ!

■監督:吉永尚之
■1989年
■30分

 

大型トレーラーの盗難事件が発生。
しかし、盗まれたドライバー本人がなぜか逃走。
いったいなぜ?
犯人は誰?
そして運んでいるモノはいったい何なのか?
多くの謎を乗せたまま夜の闇をひた走るトレーラーを追い、我らが特車隊、北へ!

 

 

全6巻の予定であったが、スペシャル追加された7巻目。
後に「アーリーデイズ」と呼ばれるこのシリーズにおいて、本作のみ押井守さんではなく吉永尚之さんが監督。
しかしけして人気に推されてムリヤリ作った蛇足作品などではなく、これまでの超ハイクオリティさとなんら遜色ない完成度。

 

 

『エヴァ』で庵野監督の右腕となった鶴巻和哉さんも原画マンとして参加。レイバー四つどもえの大格闘などの神作画迫力アクションにグッと拳をにぎりこむことができる。
鑑賞後の気分もスカッと晴れた夜明けのようにさわやか。後藤さんの粋なはからいに思わずニヤリなおめでたイイ話!

 

 

 

 

 

■関連サイト

機動警察パトレイバー公式サイト
OVAシリーズでのアニメ化から30周年を迎えた「機動警察パトレイバー」の公式サイト。作品・グッズ・出版・イベントなど、パトレイバーに関する情報を完全網羅! 「機動警察パトレイバー」……
https://patlabor-fc.com/

 

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