■監督:うえだ ひでひと
■1988年
■57分
広島の西のほうに《己斐 こい》という、ステキな響きの名を持つ町がある。
この《己斐》をモデルにした架空の町《花山町》を舞台に、ヤンチャな「ハチベエ」、のんびり屋の「モーちゃん」インテリな「ハカセ」という、キャラ分けバッチリな小六三人組のズッコケ大活躍を描き、人気爆発大ホームラン!
後に「戦後児童文学最大のベストセラー」と称されることになる、カープ選手もビックリのメガヒット作品。
それが『ズッコケ三人組』シリーズである。
その累計発行部数は、なんと2,300万部!
売り上げは全然ズッコケてない!
ちなみに作者の那須 正幹(なす まさもと)先生によると、ヤンチャな主人公ハチベエのモデルは、同じ広島出身の作家、吉本 直志郎(よしもと なおしろう)さんとのこと。
そして『右向け、左!』や『さよならは半分だけ』など、原爆孤児たちの青春を生き生きと描いた『青葉学園シリーズ』でベストセラー作家となられた、その吉本直志郎さんは、私の父の友人。
著書には、父と同じ名を持つキャラが登場したりするのである。なんか自慢である。
さらにちなみに『ズッコケ三人組シリーズ』の舞台となる《花山町》のモデル《己斐》。
私は多感な10代のドンヨリ青春ど真ん中の頃、実はこの町に住んでいたのである。なんか自慢である。
その《己斐》を歩けばこの通り!
『ズッコケ三人組シリーズ』ゆかりの場所に、立て看板や記念碑をあちこち設置!
ファンの方々が聖地巡礼しがいありまくりな町づくりがなされている。
花火大会で有名な太田川と山に挟まれた景観も美しく、JRと私鉄がクロスし、バスターミナルまであるので交通の便は最高。もちろんタクシーも拾い放題。
なのになぜか市内や、広島きってのカルチャータウンであるお隣の横川、WEBマガジン『君はまだ十日市を知らない』などで最近特に盛り上がりを見せている十日市などに比較すると、ちょっとおとなしい、さみしいイメージがある気がする。
昔からずっと万年シャッター街のまんまの場所もある。
私は逆にこの「ほのかに漂う独特の寂寥感」も好きだ。
しかし、現在行われている駅の改装や再開発を契機に、もっと多くの人が「住みたい」と、恋する町になってもいいんじゃなかろうかとも思う。
そう!《己斐》だけに!
『ズッコケ三人組』のOVAのレビューなのに、前置きが地方ブロガーの地元猛プッシュブログみたいになってしまった。
アニメ紹介サイトだと思って訪れて下さった方がズッコケてしまうかもしれないので、お話を元に戻そう。
実写映画やテレビアニメなど、数々の映像化がされている『ズッコケ三人組シリーズ』は、80年代にOVAにもなっている。
タイトルは『ズッコケ三人組 ズッコケ時空冒険』。
「本に添付されたハガキで注文する」というスタイルで、市販はされなかったとのこと。
たしかに動画サイトなどにも上がってないし(ホントは本来あげてはいけないが)、中古ビデオをオークションサイトなどでたまに見かけるぐらいなので、稀少な作品なのかもしれない。
そしてそのクオリティは、けっして埋もれていってはならないぐらい貴重な作品!
押井守さん、真下耕一さん、西久保瑞穂さんと共に「タツノコ四天王」と呼ばれた、うえだひでひと監督の確かな手腕を感じさせる、時空を超えて残り続けるべき名作になっている。
ストーリーの元になった原作は『ズッコケ時間漂流記』と『とびだせズッコケ事件記者』。
我らがズッコケ三人組が、学級新聞の記事作りに花山町を走り回っている時、学校になぞの美人音楽教師、若林雪子せんせいがやってくる。
完全にお目めがハートマークになったハチベエたちはピアノの音色に誘われて音楽室へ潜入。
しかしあら不思議。そこに憧れの雪子せんせいの姿はなく、探し回るハチベエたちが準備室で見つけたのは謎の大きな鏡。
不思議に思って手を触れたハチベエたちの体は鏡の中に吸い込まれ、なんと江戸時代にタ~イムボッカーン!
岡っ引きに怪しまれ御用寸前のハチベエたちを救ったのは、エレキテルの発明で日本史にその名をスパークさせる、あの「江戸のダヴィンチ」こと平賀源内であった!
ハチベエたちははたして現代に戻れるのか?
そして雪子せんせいの驚くべき正体とは…?
前川かずおさんのあの絵が、そのまま動き出したような再現度が素晴らしい。
雪子せんせいや、ツインテール担当の陽子ちゃん、ウェイトレスのお姉さんなどなど女性キャラもみんな魅力的。
少し萌え絵よりになっていた2004年のテレビアニメ版とはまた違うノスタルジックな麗しさ。
時の異邦人となったハチベエたちを救う平賀源内の、既成概念にとらわれないナイスガイっぷりもかっこいい。
また、フリーハンドで描かれ、水彩で着色されたやわらかで美しい美術も、懐かしい暖かみを作品に与えている。
音楽はタツノコプロの『タイムボカンシリーズ』でおなじみ山本正之さん。
作詞を原作者の那須正幹先生ご自身が担当なさった、キャラクターたちや作品内容にきちんとちなんだ3つの挿入歌も、どれもすばらしい。
オープニングはもちろん、工作が得意なモーちゃんが彼のテーマ曲らしき歌に合わせて飛行機の模型をフルスクラッチビルドするシーンなど、かけるタイミングも使い方も見事に効果的。
完成した模型飛行機を見た平賀源内の脳内に未来のビジュアルがエレキテルの電光のようにフラッシュ!
夕焼けに染まり始めた空高く舞い上がり、富士に向かって鳥のように飛んでいくその姿を、驚き集まって来た江戸のみんなと一緒に見つめるジワリと感動的なシーンは本作の白眉と言えるだろう。
また、様々な作品で取り上げられてきた「平賀源内による殺人事件と獄死」という歴史ミステリーにも、独自の謎解きを示してあり、ギャグだけでなく実はプロットもしっかりした那須作品らしい、見事なタイムスリップ物に仕上がっている。
(この点と、雪子せんせいの正体については原作のほうがより詳しく語られ、「原爆」についても触れられている。興味のある方はぜひご一読を)
江戸時代への時空冒険から無事にバック トゥ ザ フューチャーし、切ない別れと引き換えに大切なことを学んだハチベエ、モーちゃん、ハカセの三人組が、背景動画を駆使したパワフルな作画で明日に向かって元気いっぱいグングン走り出す姿に、観た人みんなグッと拳を握りしめ、こう叫んで応援したくなるだろう!
そう!
「それいけズッコケ三人組」と!
- オススメ度…82/100
- 無料動画の配信…なし
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…中古のVHSがたまにあるのみ。見かけたらぜひサルベージを!
※追記(2021年7月25日)
那須正幹先生のご冥福をお祈りいたします。