■監督:西沢信孝
■1995年
■58分
スソの折り返しに砂のたまった文部ズボン!
教科書やノートでパンパンに膨らんだ豚カバン!
シャバ僧の正装の見本イラストが歩いてるような私ですらあこがれた、80年代ツッパリ漫画界のトップスター!赤い星『湘南爆走族』!
原作と同じく驚異的な人気と売り上げを獲得し、長期にわたってリリースされ続けることになったOVAシリーズの第10弾。
それが『湘南爆走族10 FROM SAMANTHA』である。
両親の仕事で、日本の湘南を訪れたアメリカの少女サマンサ。
迷子になってしまい、街をさまよう彼女は、バイクの組み立てに夢中な1人の少年に出会う。
その子の名はグチイ・ヨケス。
もとい、春の高校入学をひかえた、まだひとりぼっちの新しき湘爆リーダー、江口洋助であった。
言葉の壁はありつつも心を通わせていく2人。
しかしそんな中、大切に組み立ててきたバイクが何者かにメチャクチャに壊されてしまうのだった…
いっぽうその頃、同じ湘南に、誰にもわかってもらえぬ孤独といらだちを抱え、ナイフみたいに尖っては触るものみな傷つける荒んだ日々を送っている少年がいた。
その子の名は石川晃といった…
今回のOVAでピックアップされた原作エピソードは、連載後期となる単行本15巻収録の「FROM SAMANTHA」と『別巻 湘南爆走族』収録の「荒くれNIGHT」である。
「FROM SAMANTHA」は、江口が口にした、イジッパリで素直でやさしくて一生懸命がんばることを指す常用語「つっぱらかる」が、海を越え、時を超え、アメリカで全力でつっぱらかってる「ある人物」に奇跡のように届くというファン感嘆のドラマチックなオチがラストに待つ、スケールのでかいシリアス名作。
「荒くれNIGHT」は、吉田聡先生が「描いてる本人も、誰しもが間に合わないだろうと思う、とんでもないスケジュールの中、底力のみで仕上げ、描きたいものがストレートに出た」という、荒々しくもムキ出しの生々しさが熱くたまらなく魅力的な作品。
アキラの凶暴で危ういグレっぷりがリアルですごい。怖い。そして痛ましい。(特に母親との口ゲンカシーン)
そんなアキラに文字通り「背中を見せる」父親の「女を泣かすヤツは、まだ半人前の男だ」というシブい名言が読者の胸にも刺さる。
また「チンピラ5人と引き分けて、えれえ有名になった男」という、元赤潮中番格、石川晃伝説の真相がくわしく語られる、実話ナックルズならぬ、実話パープルハイウェイ・オブ・エンジェルズなエピソードでもある。
OVAはこの2つの名編を、作画スタッフも2つに分け、並行して描いていくという斬新な試みがなされている。
のちに集い、戦い、共に湘南に名を轟かせていく者たちが、「実はこの時、ここでお互い出会っていた!見ていた!すれ違っていた!」という、スリリングかつドラマチックな演出が原作よりも深く細かくあちこち散りばめられており、ファンみんな思わずニヤリな喜びのツボをいたる所でグイグイ押しまくってくれる。
喜びのツボと言えば、ツッパリ作品の華「ケンカシーン」も大切なポイントであるが、サマンサ編のそれはOVA湘爆シリーズ史上1番バイオレンス度高し。
怒りの江口湘爆拳で相手の骨が砕ける『北斗の拳』ばりにひでぶなレントゲン描写はYouはShockな凄いインパクト。津山さんに見られたらドン引きまちがいなしのナイスバイオレンスだ。
また、フリーハンドと淡い色彩で描かれたスケッチのようなタッチで統一された背景美術もすばらしい。
まるでサマンサの懐かしい大切な想い出の中にいるような、ノスタルジックな情緒に心が包まれる。
そしてクライマックス。
江口が、ついに完成したGS400にサマンサを乗せ、2人で明け方のパープルハイウェイを走り抜けていく。それを見つめているのは…
OVA版湘爆を夢中で追いかけてきた人にはおなじみの、ここぞのタイミングでいつもかかる「あの名曲」に合わせ映し出される、原作ではオミットされていた、このタンデムシーンは、なぜこんなにも不思議なほど狂おしく胸を打つのだろう?
わからない。
この感動の理由をどうもうまく説明できない。
作品として優れているからなのはもちろんだが、それ以上の何かがこのシーンにはある気がする。
本作が、シリーズの監督をずっと務めてこられた西沢信孝さんの最後の湘爆だからであろうか?(次作からは総監督や監修というポジションに移られた)
長い間ずっと情熱を燃やし続けてきた湘爆への万感の想いが、このクライマックスに宿ったからではないか?
勝手な想像だがそんな気もした。
アキラを狙ってまんまと返り討ちにされてしまう5人のチンピラたちのやられっぷりが、タイムボカンのドロンボー一味ばりにちょっと愛嬌ありすぎるのはご愛嬌!
つっぱらかるハートが、たとえ離れていてもチェーンのように人と人を優しく繋ぐ「残された走り屋たち」の暖かいエピローグであり、そして期待と不安にドキドキと胸ふくらませる切なくも幸せな胎動のような、二代目湘爆誕生のプロローグである。
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