「魔法のスター マジカルエミ 蝉時雨」 二度と戻らない切なくも懐かしい夏の日の匂い

■監督:安濃高志
■1986年
■57分

 

昭和の時代。日本の全少女たちを かわいい魔力で虜にしたスタジオぴえろの「魔法少女シリーズ」。
私はハードボイルドが服着て歩いてるような男なので正直このシリーズにくわしくない。歩きながら時々「デリケートに好きして」を歌詞カード見ずに2番まで全部口ずさめるぐらいにしかくわしくない。
しかし「魔法のスター マジカルエミ」だけはリアルタイムで観ていた。途中からだが毎週欠かさず観ていた。

 

 

「蒼き流星SPTレイズナー」の記事でも書かせて頂いたが、私が住んでいた広島では金曜の夕方、「レイズナー」の前にこの「マジカルエミ」が放送されていた。その流れで観るようになったのだ。
いや!後にやってたのならともかく前にやってたのに「流れで…」というのはおかしい。
そう!流れに逆らってでも観ていたのだ。
「レイズナー」より「エミ」に会うのに間に合わせるべく「♪つっかまえて マイ・ハッピネス~♪」と、主題歌を気持ち良く熱唱しながら学校から家までチャリで激走する気もち悪い私がいた。この作品にはそのぐらいの魅力があった。

 

そんな強力な魔力を持つ「魔法のスターマジカルエミ」。
マジシャンを夢見るちょっとぶきっちょな少女が、鏡の妖精に授かった魔法の力で変身!天才マジシャン・マジカルエミとなり、魔法のスターとして大活躍!…という夢のあるお話。
正直、大半のエピソードは夢のようにボンヤリとしか覚えていない。
しかし!強烈に覚えているのは最終回。
「魔法に頼らず、たとえ不器用でも、努力して自分の力でマジックをしたほうが喜びが大きい!」ということに気づいた主人公・舞が、何と自らの意思で魔法を放棄するのである。
シブい…何というシブい終わり方であろうか。
昭和の少女たち…と私はみんな「自分で選び、そのことに責任を持ち、努力することの尊さ」をマジカル・エミから学んだのである。
いま観ても劣化防止の魔法がかかってるみたいに驚くほど作画が古びておらず、マジカル美しい。
全38話。そんなに長くないので興味のある方はぜひ観てみてください。

 

このOVA「蝉時雨」(せみしぐれ)は、成長した舞がアルバムをめくりながら、少女だった昔のこと、まだマジカルエミだった頃の夏の日々を回想するというもの。
テレビ版の全38話を把握できるダイジェストが冒頭に10分ほど入っている親切仕様。(ちゃんと初心者マークが表示されて始まるのが粋だ)
なのでこの作品だけを観てもそれなりに楽しめると思う。

 

 

ストーリーを説明すると……説明すると……すると…
説明できん!
…というのもこの作品、ストーリーは無いに等しい。
舞をはじめ、登場キャラたちのある夏の日常が淡々と描かれるのみ。そして恐るべきことに、それで最高なのである。なぜこれでまったく退屈せず、最後までジワリと面白く観れるのか?このマジックのタネがわからん!私なんぞには!

 

成長した舞が一人静かにアルバムをめくる暗い部屋。
木漏れ日、夕立、水の雫、虹。
風鈴の音、虫の声、蝉時雨。
壊れてしまったカップ、水に落ちてしまった帽子。線香花火。
もう戻らない物を見つめ、何かを思うキャラクターたちの顔…

 

 

それらの美しく丁寧な描写の積み重ねが情緒の塊となり、観る者の胸を打ち、二度と戻らない切なくも懐かしい夏の日の匂いを呼び覚ます。
派手は魔法はほとんど出てこない。しかし作品には郷愁を誘う美しい魔法が確かにかかっている。

 

 

  • オススメ度…80/100
  • 無料動画の配信…youtube(外国語なのであんまり…)
  • 有料動画の配信…なし
  • ソフトのレンタル…なし
  • ソフトの販売…DVD-BOX1に収録。中古のVHSもたまにあり