私の宮沢賢治作品との本格的な出会いは、中一の時に現国の教科書に載っていた『注文の多い料理店』だったと思う。
感想は「これ…ゴリゴリのホラーやんけ…」というものだった。
この頃からオドロマイナー趣味全開だったため、あまり気にしていなかった宮沢賢治という超メジャー作家にここで初めて強く興味をひかれ、新潮文庫で他の数々の作品も読み、驚いた。
夕暮れ時に山で迷子になった子供が感じるような恐怖と寂寥感と幻想に満ちた悲しい物語が、冬の夜空の星々のように冷たくまたたいていた。
それまでにもチビッ子用に勝手に簡単に書き換えられた楽しそうな表紙の絵本などはチョイチョイ開いたことがあったが、けっしてクラムボンみたいにかぷかぷわらえなかった理由がわかった気がした。
ご本人が「サウイフモノニ ワタシハナリタイ」と願った形とは違うかもしれないが、生前とは打って変わって、誰からも絶対にデクノボーなどと呼ばれることはない確固たる高い評価を得て、数多くの映像化もされている宮沢賢治作品だが、80年代にビデオデッキの普及と共に起こった「何でもかんでもOVA化!」の大波に乗ったコナミさんによってアニメ化。2本のOVAがリリースされた。
両作とも原作を大切に尊重し、当時の流行りの作りにシッカリとソッポを向き、斬新な表現にチャレンジした、非常に作家性の強い見応えのある作品になっている。
宮沢賢治作品集
『風の又三郎』
■監督:りんたろう
■1988年
■30分
「ああわかったあいつは風の又三郎だぞ。」
山奥の小学校に風と共に現れたミステリアスな少年と過ごしたひと時の出来事を、現実と幻想を織り交ぜて描いた作品。
この「元祖!謎の転校生モノ」を、我らがりんたろう監督がアニメ化。
夢かまことか定かならぬ幼き日の記憶のような味わいを持つ宮沢賢治の代表作と、もうひとつの銀河鉄道を走らせたりんたろう監督との相性は抜群。
透過光が幻燈のように怪しくきらめく映像美と音楽が炸裂するクライマックスが、懐かしさをはらんだ風のように胸を吹き抜け、切なくも不思議な感動を残していく。
原作の文章をそのまま読み上げていくC・W・ニコルさんのナレーションも、たどたどしくも日本文化への誠実な愛情に満ちており味わい深い。
『どんぐりと山猫』
■監督:平田敏夫
■1988年
■25分
「あした、めんどなさいばんしますから、おいでんなさい。とびどぐもたないでくなさい。」
木の葉にたどたどしい文で書かれた怪しすぎる山猫からの手紙に誘われ、たった一人で出かけた一郎少年が山奥で目にしたものは…
おそらく「となりのトトロ」にも多大な影響を与えたに違いない原作を、ラストで何とも言えない余韻を残しまくってくれる名作『ボビーに首ったけ』の平田敏夫さん監督でOVA化。
『ボビーに首ったけ』も斬新な試みがなされた刺激的な作品だったが、本作もアニメというより、名倉靖博さんの柔らかで淡い色彩の絵で紡がれる「動く絵本」のような美しくも攻めた作り。
こちらのナレーションは、昭和生まれには『ピッカピカの一年生』のCMソングでおなじみのクニ河内さんが担当。『まんが日本昔ばなし』の常田富士男さんばりの語り部っぷりを聞かせてくれる。
- オススメ度…66/100
- 無料動画の配信…Youtube
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…中古のVHSがたまに…ない!