『迷宮物語』  この恐ろしくも美しい迷宮で迷子になろう!

■監督:りんたろう 川尻善昭 大友克洋
■1987年
■49分

 

劇場公開もされた、OVAにして魅惑の角川アニメ映画。
りんたろうさん、川尻善昭さん、大友克洋さんというアニメ界の大物3人が監督。
3本の作品が入っているのに上映時間わずか49分。
つまり1本は数10分。
しかし、お三方の強い作家性、職人魂が夜空を彩る花火のように美しく炸裂!短いながらも非常にタップリと観た気になる、大満足の超豪華SF幻想オムニバス・アニメ。

 

どのエピソードも、普通の映画っぽいわかりやすいクライマックスやオチがあるワケではなく、話によっては難解な印象を受けもする。
そのため観る人を選ぶタイプの作品かもしれない。
しかし例えば、押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』や、鈴木清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』などが お好きな方は、本作にもハマるのではないかと思う。私はもちろん大好きである!
この作品の美しさは、時を経ても今なお、まったく色あせていない。幻想世界に心魅かれる人々を永遠に魅了し続けるだろう。

 

ちなみに日本SFジュブナイル小説界の校長先生、眉村卓さんの原作小説もあり。もちろん角川文庫。
いくつかのSF幻想ストーリーが断片的に少しづつ平行して語られ、そこにアニメ版のスタッフでもある森本晃司さんや、福島敦子さんの美しいイラストが挿しはさまれるという摩訶不思議かつ豪華な作りの1冊。
読んでから見るか、見てから読むか、原作とアニメではストーリー、キャラ、設定などなどがまあまあ全然ちゃうのでどちらでも良いか!

 

 

『迷宮物語』

第1話 ラビリンス ラビリントス

 

アニメ版の1話目、このオムニバスの迷宮の入り口となるのは、りんたろう監督の『ラビリンス ラビリントス』。
少女・さちは、かくれんぼをしていてサーカス小屋に迷い込んでしまう…というストーリー。

 

 

美しく、幻想的で、そして…怖い!
私はもうムチャクチャ怖かった。
子供の頃に観たらトラウマになったのではないかと思う。
吉田日出子さんのささやくようなセリフも、緊張をほぐす効果があるとして精神科で治療に使われたりするらしい「ジムノペディ」の旋律もすべてが恐ろしく感じた。

 

迷子の子供が絶望して見上げる夕暮れの知らない街のような、夢か真か定かならぬ思い出してはいけない幼き日の怖ろしい思い出のような不思議な作品。

 

第2話 走る男

 

 

2話目は川尻善昭監督『走る男』。
ディストピア感ただよう暗い未来で行われる、モンスターマシンによるカーレース。
一瞬の油断で命が燃やし尽くされてしまう恐るべきその世界で、スピードと勝利にとりつかれた男の狂気を描く。

 

原作にはカーレースという設定はまったく出てこない。キャラの名前が同じだけで、話も全然違う。
天才・川尻監督がそのイマジネーション&作画力を全開フルスロットルで描き出したハードボイルドで重厚な世界に酔うべし。

 

第3話 工事中止命令

 

 

3話目は大友克洋監督『工事中止命令』。
ジャングルの奥にロボットによる全自動工事で築かれつつある巨大都市。
その工事の「中止命令」を伝えるべく赴任した男が遭遇する、狂気と恐怖を描く闇の奥。

 

『AKIRA』もビックリの凄い作画。
あの「白」を混ぜたような独特の色味の「大友カラーリング」で描かれた巨大都市が、ジャングルの中から現れる美しくも異様な光景に、開幕早々、主人公と同じくポカン顔になること間違いなし。

 

 

また終盤、豪雨の中、狂ったロボットたちが、故障し、爆発し、土砂に飲まれながらも工事を続けるシーンの作画の緻密さ、怒涛の迫力も狂気の沙汰で必見。
不穏な余韻を残すラストもステキに不気味。

 

 

 

…と、このように、3本とも非常にクオリティの高いオムニバス作品。
「80年代OVA」は、新しくソフト化、配信などがされず、ビデオテープと共に廃棄物として歴史の中に埋もれていってしまう作品も多い。
しかし、さすがの名作。この迷宮は埋もれない!
DVDの発売、配信など、キチンとされており、色んな所で視聴可能!
不思議な3つの物語で作られた、この恐ろしくも美しい迷宮で迷子になろう!