■監督:石山タカ明
■1989年
■80分
名は体を表す。
高いクオリティを、永く、久しく、保って、ずっと今までも、きっとこれからもマンガを描き続けておられる永久保貴一(ながくぼ たかかず)先生。
そんなオカルト・ホラーマンガ界の守護神、永久保先生の代表作が『変幻退魔夜行 カルラ舞う!』シリーズである。
1986年に始まり、発表の場を変えつつ、今なお(執筆時2022年3月)連載中という元気な人気っぷり。
かわいい双子のJK退魔師シスターズ、翔子と舞子が日本全国津々浦々お祓いバトル!霊的難事件に挑んでいく伝奇オカルト・ミステリー・アクションだ。
本作は、二人の最初の事件「奈良怨霊絵巻」をアニメ化したもの。
80分というしっかりした上映時間で作られ、劇場公開もされた、OVAというよりも映画作品である。
《内閣府》の調査依頼を受け、翔子と舞子は、奈良県のとある高校へ転入。
そこでは、政治家すらも利用し、使い捨てる「恐るべき霊的陰謀」が密かに進行していた…
次々と怪現象が起こる旧校舎に眠る秘密とは?
暗躍する仮面の男の正体は?
因縁、怨念が複雑に絡み合う手ごわい謎を解き明かすべく、翔子と舞子は知力、体力、霊力を尽くし仲間たちと共に戦う。
すべての謎を解く鍵は…あの《朱雀門》にあり!
永久保先生の原作は、エピソードに関わる歴史、伝奇、密教などの資料にきちんと向き合い、蓄えられた広い知識と、加えられた深い考察に基づきストーリーが語られるインテリ骨太構成。
作品に含まれるその情報量の多さたるや古代史などのテストの点数が上がるレベル。
「説明しよう」という『ヤッターマン』なセリフと共に、図解満載の教科書のように解説が挿入されることも多く、たまに教科書で読んだことのない俺ジナル史実も飛び出してしまう頼もしさ。
こんな知の冒険ができるのはマンガ界広しと言えど、諸星大二郎先生と、永久保貴一先生だけ!
ではアニメ版について説明しよう。
膨大な情報が詰め込まれた原作のキャラクターやエピソードなどを精査の上で慎重に少しカットし、マンガと違ってその場ですぐに見返しができない映画向けにスッキリ化。
本格オカルト・ミステリーとしての見ごたえ歯ごたえはしっかりと残しつつ、一本の映画として混乱せずに観れるようスマートにまとめ上げている。
また、カットするだけでなく、アニメーションならではのオリジナルシーンもいくつかプラス。
特にアバンタイトル。
飛鳥時代に屋敷の中庭で蹴鞠(けまり)が行われており、毬を蹴った貴族の靴が割れ、ポーンとあさっての方向に飛んだ毬が現代の雨降る校庭に転がり落ち、血がドクドクあふれ出し、生首にへんげしてオーラを放射!真っ赤な「怨」の字になるという、文章で表現するともう何が何だかどうかしてるシーンは必見!『アンダルシアの犬』も尻尾を巻いて逃げ出すインパクト満点のシュールレアリズム感をしょっぱなから蹴り込んでくる。
さすがは劇場公開作だけあって、作画は全編美しい。
上記のどうかしてる蹴鞠シーンもそうだが、特にスプラッター描写はなかなか凄い。
生首や目玉が血しぶきをあげて景気よくボタボタ落ちまくり、ご飯を食べながら観てたらお箸がションボリ止まること間違いなしの真心のこもったイボイボブツブツ系グロ描写が随所に噴出!
また、作品の肝心かなめ「退魔アクション」も、動きにキビキビとキレがあり、チビッ子ならずともマネしたくなるほどカッチョいい。
バトルものの鉄の掟「決めポーズと技名のシャウト」と共に繰り出される必殺の術にやられること間違いなしだ。
そして何と言ってもクライマックス!
作品タイトルにも含まれている、カルラ信教の奥義「変幻」である。
退魔シスターズの双子の魂がチェンジ!戦闘力が強い舞子の体に、感応力が強い翔子の魂がドッキングすることで霊力にハイパーブーストがかかるこの必殺技がついに発動する時のカッコ良さときたら!
若い方にもわかりやすく説明すると『ウルトラマンA』の「ウルトラタッチ」、または『勇者ライディーン』の「フェードイン」や、『マグネロボ ガ・キーン』の「スイートクロス」クラスのカッコ良さ!
巨大変身ヒーローやスーパーロボットがクライマックスでついに合体したり、必殺技を繰り出す時の「よっ!待ちに待ってました!」感がワクワクみなぎる激アツシーンになっている。
キャラクターの描き方も、とても丁寧で美しい。
鶴ひろみさんと山本百合子さんが演じた主役の2人の真逆なタイプの可愛さはもちろんのこと。
我らが永遠のクールボイス王子、塩沢兼人さんが演じた、敵にも敬語を使うタイプの美形キャラ、「闇の死繰人 シグルト」剣持司(けんもち つかさ)の麗しさは目と耳の保養になるほど SO COOL!
物語の途中、敵の攻撃を受け、剣持はその美しい顔に傷が入ってしまう。
術で治せるのだが、「戒めのため残しておく」という選択をするシーンでは、内閣調査室の錦織さん(屋良有作さんが演じておられるせいもあり、だんだん『妖獣都市』の滝 蓮三郎に見えてくる)と同じく「もったいない…」と思わずつぶやいてしまうだろう。
さて、そんな『変幻退魔夜行 カルラ舞う!』シリーズ。
原作が優れているし、このアニメ版も好評だったのだろう、この後も1990年に『仙台小芥子怨歌』編がOVA化された。
今回の奈良はもちろん、我々が色んな場所に安心して観光旅行に行けるのは、きっと今日も日本のどこかで翔子たんと舞子たんのお2人が悪しき怨霊たちに必殺の「変幻」をぶちかまし、人知れずせっせと退魔してくれているからなのだ!
今日もどこかでカルラ舞う!
- オススメ度…79/100
- 無料動画の配信…youtube
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…中古のVHSがオークションなどでたまにあり
■永久保貴一先生のホームページです。↓