■監督:石黒昇
■1990年 ■53分
作られたのは1990年。ギリギリ80年代OVAではないのだが、ある事情があって書かせて頂く。
原作は、村上もとか先生が、少年サンデーに連載しておられたボクシングマンガ。
ボクシング経験のないカラテカが、父の医療費を稼ぐためボクサーにジョブチェンジ。
ガンで余命わずかの老トレーナーとタッグを組み、残されたわずか1年半で、ヘヴィー級の世界チャンピオンをめざす!…という物語。
現実的にはほぼありえないっぽい主人公たちの無理ゲーな挑戦を、無理と思わせない圧倒的なリアリティー。
空気感やニオイまで伝わってくるような緻密なタッチで描かれたアメリカの風景。
その中に生きるキャラクターたちが背負う、それぞれの人生の重み。
日本人好みの「判官びいき」「負けの美学」など通じない、勝者だけがすべてをつかむ弱肉強食・実力至上主義のアメリカン獣道を「豚は死ね~狼よ生きろ~」の落合信彦スピリット全開で、体力知力をフル活用し、敵を吹き飛ばし、頂点めざして駆け上っていくアメリカっぽいワイルドさ。
必殺トルネード・アッパー誕生の感動と、パンチの重みが伝わってくるような圧巻のファイトシーン。
そして浮かび上がる「ヘヴィ」というタイトルの持つ深い意味。重いテーマ…
連載を一緒に読んでいた兄が、「この面白さは…こりゃ職人技だな。」と言ったのを今でもハッキリと覚えている。
そう!村上もとか先生のベテランボクサーのような職人技に、読めばノックアウトされること間違いなし!「あしたのジョー」や「はじめの一歩」など、ボクシングマンガのチャンピオンたちともファイト可能な、まさにヘヴィ級の大傑作なのだ!それなのになんか知名度がイマイチ低いような気がする!
特筆すべきはラストファイト。
試合直前に託された「最終兵器」の謎、暗殺者のサスペンスとビックリな登場、「ここぞ!」というところでのまさかの試合中止!?などなど…
「どうすれば読者が面白く読めるか?」を知りつくした村上もとか先生の職人技がフルパワーのコンビネーションブローで炸裂!たった2ラウンドの攻防の中に、ミステリー、サスペンス、サプライズがこれでもかと詰まった、二転三転する濃密かつ感動的な、キンシャサの奇跡級のベストバウトになっている!
ちなみに私はボクシングマンガの中ではこの「ヘヴィ」が、「リングにかけろ!」の次、つまり2番目に好きな作品なのである!
いや!「リンかけ」は青春サイキックマンガなのでやっぱり1番好きなのである!
ギリギリ80年代OVAではないのに書かせて頂いたのはこういう事情である。原作が好きすぎるのだ。
しかしこのOVA。
大変失礼ながら、上記のこのマンガの良さが1ポンドも盛り込めていない…ような気がする…
何かあんまりやる気の感じられないジャケットからして悪い予感はしたのだが…
例えば作画。
原作の村上もとか先生の絵はこのようにもちろん最高なのだが… ↓
OVAだとこう! ↓
ズコー!!
作画担当の方は私と同じく右向きの顔を描くのが苦手だったのかもしれない…
「この感じ…何かに似てるな…」と思ったら、作画クオリティーの高低差ハンパない系アニメ「超時空要塞マクロス」のハズレ回だ。あの感じだ。
そして、エンディングのスタッフロールをしょんぼり見てたらガーン!監督が「マクロス」と同じ石黒昇さんであった。
しかしおかしい!
「マクロス」は資金やスケジュールともに切迫した状況で、海外に作画を発注せざるを得ないこともあり、クオリティーが安定しなかった。
しかし当たり回の時の素晴らしさは他のアニメとケタ違い。ベストな制作環境なら石黒昇さんは名監督なのである。例えばOVAなら大傑作「銀河英雄伝説 わが征くは星の大海」なども石黒さんの作品だ。
だからこの「ヘヴィ」も何かきっと事情があったに違いない!石黒さんは何も悪くない!
スタッフロールを見ると海外の方が作画に参加しておられるようだ。
「マクロス」の時と同じく、何かしらデカルチャーな、困った事情があったのかもしれない。
ジャケットのスミにちっちゃく「劇場公開版」とあるがなぜ劇場で…?
ズコー!!
このサイトのタイトルは「80年代OVAのススメ」なのに全然ススメてなくて申しわけないのですが、「ヘヴィ」に関しては原作が激しくオススメです!
- オススメ度…18/100
- 無料動画の配信…Youtube
- 有料動画の配信…なし
- ソフトのレンタル…無し
- ソフトの販売…中古のVHSがオークションなどで出回るのみです。
本作の「劇場公開」についてなのですが、週間少年サンデー主催のOVA化記念イベントで、ほかのいくつかの作品と一緒に、映画館で上映されたらしいとのことです。
ミナミ様、情報提供ありがとうございました。