■監督:梅澤淳稔
■1990年
■50分
兄が少女マンガも読む人だった。
なので80年代少女マンガ界をシメた高口里純先生の『花のあすか組!』も当然ズラリ見参!兄の本棚の一角を、あの薄三原順子色に染めていた。
他には柊あおい先生の『星の瞳のシルエット』、惣領冬美先生の『ボーイフレンド』、紡木たく先生の『ホットロード』などなど…
あの頃、兄の本棚から少女マンガをチョイと拝借して読んでいつも抱いた感想は「なんか…むずかしい!キャラたちが抱える悩みとか葛藤のレベルがなんか…高い!同じ学生が主人公でも『魁!!男塾』とかと全然ちゃう!」という大変レベルの低いものであった。
このように、80年代に大人気だった少女マンガの中には文学的とすら言える深みを感じさせる作品がたくさんあったと思うが、当時の女子のみなさんは普通に読みこなしておられたのであろうか?
青きあのころ、母ちゃんとばあちゃんしか知り合いの女子がいなかったので知るよしもない!
しかし、大人気だったということはやはり皆さんサクサクと普通に読みこなしておられたのだろう。「男子よりも女子のほうが精神的な成長が早い」と聞いたことがあるがその通りなのだろう。同じころ週刊少年ジャンプの裏表紙とかによく通販広告がのってた『Dr.キャツポー』の購入を日々昼夜真剣に検討していた私は何らかのDr.に診てもらったほうがいいくらい精神的な成長が遅かったのであろう。
それはともかく『花のあすか組!』も!
しもべのカラスが敵に攻撃を加えたりするバトルシーンは『魁!!男塾』とタイマンはれるぐらいステキにエキセントリックだが、キャラクターたちが抱える悩みや葛藤、口にする言葉、語られるテーマなどは重厚で深みがあり文学的だったと思う。
たとえばこんなシーンがある。
公園にボロボロで息も絶え絶えの子犬がいる。
腐れ悪ガキ男子どもに面白半分でいたぶられたのだ。
ある女子中学生が駆け寄ろうとすると「近づくんじゃねぇ!」と怒号!
見るとベンチにあすかが座っている。
そしてこう言うのだ。
優しくされればすがりついてくるぜ。その手をあんたの都合で振りほどくんだろ?
だったら手なんか差しのべるなよ。気まぐれでかまわれたんじゃ犬だって迷惑だ。
それでも何もしないよりマシだという女子に対し続けてこう!
わかっちゃいない。さっきの連中もあんたもね。
体は残虐なことをしてんのにさ これは遊びだ たいしたことはないって自分に言い聞かせながら演技を楽しんでる。
楽しんでいたんだから悪い事じゃないってね。イザというときはそう言うんだろ?
逃げ道の用意してある優しさなんて 誰のためにもならねぇよ。
静かに、しかし決然と言い放ち「四本の足で立つまで誰にも手は出させない。それがかかわった私の役目」だと、虫の息で震える子犬をジッと見つめるのである。
マンガ界広しと言えど「瀕死の子犬に手をさしのべないヒロイン」はあすかたんだけ!
その毅然とした態度に圧倒された女子は困惑しつつその場を立ち去るが、あすかの行動と言葉は胸に刺さっており、その意味を考え始め、これをきっかけに彼女の中で何かが変わっていくのである。
…と、このようにあすかの言葉は深い。
ブログなどで「あすか語録」を編纂なさっておられる方もいるぐらいの名言メーカーなのだ。
私も個人的に特に印象的だったセリフをいくつか下記に抜粋させて頂く。
処女膜 失うのと痛みはたいしてかわらねぇだろ。
だけどね
なぐられる方が得るものがずっと多いんだ
傷つくなんてカンタンにいうな!
どうせやるなら人の皮膚で一番柔らかいところにやるんだな。それが根性焼きじゃないのかよ。
てめえのは人の目につくとこばっかじゃねえか。ハンパのカンバンしょってるようなもんだ。
誰に一番 力があるかなんつーのはね 上にはいあがろうと思っている連中が考えることだよ。
損得に頭回すようになっちゃ体がついていかないもんさ。
おかしいもんをおかしいと思えねぇから平気で人の背中つきとばすようなまねができるんだよ。
恥ずかしい気持ちってさ 自分を守ってくれるんだ。
自分を強くしてくれるんだから…
痛みもなしに 手に入る物なんて 結局たいしたことねえんだよ。
今度はヤケドぐらいしてみろよ。
一番のもののために。
学校なんか必要悪の1つさ。
お互いに やな思いして それで日々 過ぎていく。
逃げたきゃ逃げりゃいい。
行き止まりがあるってこと知るくらいの価値はある。
いじめられたことがあるなら分かってるだろう?
強がりでつくったダチなんて捨てろ。
じたばたしないで ひとりぼっちになればいい。
……どうであろうか?九楽あすか14才のセリフは。
私なんぞは、あすかたんのご両親の歳をすでにおそらく大幅にオーバーしたであろうオッサンだが、両親に説教くらったチビッ子みたいに背筋ピーンである!
皆さまはどうであろうか?
さて、前置きがシャバくなってしまったが、このたび紹介させて頂く作品は『花のあすか組!2 ロンリーキャッツ・バトルロイヤル』!
マンガ界だけでなく、テレビドラマ界、映画界も制覇したあすか組の、OVA界進出第2弾である。
あすかとそのダチたちは、ある日突然、何者かに集団で襲われ始める。
時間も場所も問わず次々と現れる謎の敵たち。
その正体は?目的は?
探りを入れた結果、あるお嬢様高校に通う、イジメを楽しむタイプのド外道女子たちが運営する《いちごミルク》というパーティーサークルの存在が浮かびあがる。
なんと!
あすかたちは、そのパーティーの目玉企画である「あるギャンブル」の駒に勝手にされていたのだ!
「あるギャンブル」。
それは都内のドロップアウト女子中学生たちをトーナメント方式で戦わせて金を賭け、勝てばヤクザがらみのクスリもゲットできるという人間的に完全にドロップアウトしたヒドいものであった。
そして、この黒いたくらみの裏には、あすかの恩人であり、時に怨人であり、そしてマブダチである鬼島陽湖(きじま ようこ)の存在があった。
ケジメをつけるため、あすかは激しい戦いに身を投じる!
このバトルロイヤルの決着のゆくえは?
元となった原作は、本編とは別にたくさん描かれた外伝の中の1つ。
ロス・マクドナルドの本格ハードボイルドばりに、事件の恐るべき真相にジワジワとせまっていく展開にグイグイ引き込まれる名中編である。(ちなみに『花のあすか組!』は、たくさん描かれたこれらの外伝がまたどれもどえらい面白いのだ!)
OVA1作目『花のあすか組! 新歌舞伎町ストーリー』に続き脚本担当役を襲名した寺田憲史さんは、原作を尊重しつつ、他の外伝のエピソードなども加え、さすがの職人技で巧みにぷちアレンジ。
個人的にシビれたのはここ!
原作とは違い、パーティー会場ではなく《いちごミルク》メンバーのお嬢様学校に「ウマも知らずに競馬かよ。優雅な話だぜ。」という14才にしてはシブすぎるセリフと共に、あすかが堂々とたった一人で乗り込んでくるシーンである。
拒食症で悩む女の子に校舎裏でインネンをつけ「こいつが自殺するかどうか賭けようか?」「拒食症のブタ!」などと笑いながらイジメて震えあがらせる腐れいちごミルクメンバーズを、ドスの効いたタンカといつもの名調子で震えあがらせるあすかに皆さまも惚れることまちがいなし!
『六神合体ゴッドマーズ』や『戦国魔神ゴーショーグン』の麗しいキャラクターデザインでおなじみ、昭和から令和の今まで最前線で驚異の活躍をし続けておられる「アニメ界の戦国魔神」こと本橋秀之さんを作画監督に迎えたビジュアル面も美しい。
劇場用映画ばりにモブまで細かく動く驚きの緻密さ。
あすかの俺ジナルウェポン《空とぶギロチン》ならぬ《空とぶ金貨》が敵を撃つアクションもキレキレ!
特に原作者の高口里純先生も喜んでおられた、アニメ版ならではの「花園神社の対決」は必見!
「ポンポンポン…」という鼓の音と共に暗闇の中に刺客たちのつけた能面が浮かび上がる妖術忍者モノのような驚きのブッとんだバトルに見事にやられた。
電車、雑踏のざわめきなどの音、曲(川井憲次さんである!)、歌の使い方にもシッカリとした意図とハッキリとした効果を感じさせる梅澤淳稔監督の演出力も確かなもの。
切なくも優しい詞が心にそっと刺さるバラード『ひいらぎ』が流れる中、『花のあすか組!』という作品の最重要キャラクターである鬼島陽湖とあすかのファイナルタイマンバトルが、長く激しく繰り広げられる。
このクライマックスの胸にせまる切なさたるや。
決着を迎えた時、きっとあすかと共に静かに涙を流すことになるだろう。
そして、イジメを受けていた拒食症の女の子があすかと出会ったことで、わずかだが確かな心の成長を見せるエピローグは、雪夜の明けた晴れた朝のような澄み渡るさわやかさ!
まちがいのない快作である。
ところで原作は全27巻。
23巻の冒頭で、昔のあすかと似た傷や痛みを抱えた読者のお便りをブッ込んでくるという、高口里純先生の真摯な想いや熱い決意が伝わってくるあの鳥肌が立つようなモノ凄い演出から、怒涛の勢いで終幕に向かって爆走!涙腺大破壊のクライマックスと感動のエンディングにたどり着く。
未読の方はぜひ!
オススメ度…79/100
無料動画の配信…Youtube
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