■監督:川瀬敏文
■1987年
■31分
80年代!
それは、家庭用VTR市場の覇権を巡り《VHS》と《ベータ》の二つの規格が熾烈な争いを繰り広げた「ビデオ戦国時代」であった。
この戦いに勝利することになる《VHS》のビデオデッキが、たいていの家庭のお茶の間にテレビとペアで置かれるようになる前のこと。
まだビデオデッキを持ってなかったり、《ベータ》を選択してしまい しょんぼり《アニメV》をめくってる人たちに、馬上から西軍の落ち武者を見る徳川大名のエッヘン顔で接するVHSユーザーたちがいた。
そんなVHSビデオデッキイキりのみんなが、羨望の眼差しを向けたさらに上位の規格があった。
VHSよりも美しい映像が楽しめ、ビデオテープと違って劣化もしないLD(レーザーディスク)である。
そして「VHS 対 ベータ」のように、その《LD》と市場を争った規格があった。
その名は…
そう!
《VHD》!
「そう!VHD!とか言われても知らんがな。」と思われたかもしれないが私もそう思う。
80年代OVA博士の顔でこのサイトを運営してるのに恥ずかしいかぎりなのですが、私も「VHD知らんがな。」なのである。
当時《LD》のプレイヤーを持ってる石油王な金持ちは私の周りにもチラホラいたが、《VHD》および、そのユーザーというものはまったく見かけたことがなかった。
『アニメビジョン』という、VHD形式の珍しい情報誌(?)が発売され、その中の連載アニメとして名作OVA『コスモス・ピンクショック』や『妖刀伝』が生まれたのだが、私はVHS版しか記憶にない。
なんでも《VHD》というものは、映像が美しく劣化が少ないのはもちろん、《LD》よりも生産コストが安かったため普及がおおいに期待されたとのこと。
そしてなおかつリリースされたソフトの中には「3D立体映像」が再生可能なものもあったらしい。
本作『DEAD HEAT』がその一つ。
最初は《VHD》で「3D立体映像アニメ」として市場に飛び出したとのことである。
いったい映像のほうは、どのシーンで、どんな感じで飛び出していたのだろう?
私は後に出た2D映像のみのVHSビデオ版しか観たことがない。
今となっては3D版の視聴はかなりハードルが高いだろう。当時、体験できた方のお話をぜひ聞いてみたいものである。
「なーんだ、じゃあ今、観れるのは、《飛び出すアニメ》の《飛び出さない版》かー。見どころないじゃん、意味ないじゃん。」と思われた方!
あいや待たれい!
本作は、3D立体映像だけが売りの、遊園地のアトラクション的な、ただの「飛び出すびっくりアニメ」では断じてない。
非常にシッカリした脚本を搭載してるので、別に3Dで飛び出さなくても全然問題なし。
凡百のOVAの中から、おもしろさでは充分飛び出し、『サーキットエンジェル』や『TWIN』ともデッドヒート上等の、熱い「青春バイクレースOVA」なのである!
いや!「青春ロボットバイクバトルレースOVA」なのである!
時は近未来。
人々は「走りながら格闘OK!」の、中2魂あふれる夢のようなロボットバイクレース「FX」に熱狂していた。
そんな中、ふだんは実績に応じてカースト制度ばりにランク分けされているすべてのチームが一同に会する「オープンカップ」が開かれることになった。
これは一気に下克上のチャンス!
最下層Dランクの弱小貧乏チーム《ビッグウェーブ》のドライバー、マコト(声:矢尾一樹さん)は、己の意地、プライド、ヒロインとのホテルデートを賭け、「やってやるぜ!」と、この大波に挑む!
謎のモンスターエンジンを引っさげて協力を志願する怪しい押しかけエンジニアとその正体というミニミステリー。
高圧的でイヤミなイケメンライバルや、口やかましい借金取り爺さんなどの嫌な感じの性格が、いい感じにラストで効いてくる巧みなキャラ設定。
そして「ある絶望的なトラブル」と、あきらめリタイアムードからのワンスアゲイン!
作劇マニュアルのポイントをシッカリと踏みつつ、エンタメの王道を突っ走り、カタルシスあふれるチェッカーフラッグにたどり着く脚本がお見事!
ダイス船長のロボノイドとモスピーダが合体したみたいなFXマシン同士の火花散らす激しいレース&レッスルは、さすがの見どころ、手に汗必至!
矢尾一樹さんや本多智恵子さんなど、スター声優の皆さんの好演もキラリ光り、作画も全編美しい。
なかなかの満腹感が味わえますが、上映時間なんとわずか31分!
夢に向かってまっすぐに走る者たちが起こしていった清々しい風が心を吹き抜けていくような、さわやか好短編です!
- オススメ度…72/100
- 無料動画の配信…Youtube
- 有料動画の配信…バンダイチャンネル GYAO! Amazon Prime Video
- ソフトのレンタル…なし
- ソフトの販売…中古のVHSがたまに