■監督:片山一良
■1988年
■70分
80年代。
通(つう)を自称するアニメファン、マンガファンの本棚にたぶん必ず並んでいた作品がある。
ハイレベルな画力で描かれた廃墟の中で、カッチョいいウサ耳メカ男が美少女を抱きかかえている、あの強烈なインパクトの表紙の単行本…
そう!
士郎正宗さんの『アップルシード』だ。
大友克洋さんの絵の緻密さと、スタンダードなアニメ美少女キャラの可愛さと、本格SFのマニアックさが融合したような『アップルシード』の登場は衝撃だった。
どこかに連載していたワケではなく「いきなり単行本での発表!」というのもスペシャルな作家感があり、士郎正宗さんのカリスマ化に拍車をかけていた。お名前も孤高のサムライみたいで何かめっちゃカッチョ良かった。
「士郎正宗って絵がぶちうまいじゃろ?実はのう…あの人…高校の美術教師をやっとるんで!」と、どこかに載ってた、もうみんな知ってた豆知識をみんな自慢げに「ジャジャーン!」と披露しまくっていた。
あの時、世界にまかれた『アップルシード』という種は、瞬く間にたくさんの熱狂的なファンを生んでいった。士郎正宗さんは、誇り高きアニメ・マンガ・SFファンたちの新しきスターだった。
そして もちろん我が家にも!
兄が通気どりじゃなく、ハヤカワSF文庫のウィリアム・ギブスンやフィリップ・K・ディックを角川スニーカー文庫ぐらいスイスイ読みこなすホントに通なインテリSFファンだったので、もちろん『アップルシード』も置いてあり、当然、私も手に取った。
そして…
途中で挫折した!
作品が悪いのではない。私の頭が悪すぎたのである。
ギリシャ神話由来っぽいキャラたちの名前、「ランドメイト」「ギュゲス」などの初めて聞くカッチョいい数々の固有名詞がバンバン飛び交う会話、欄外の用語解説、緻密に描き込まれた絵などなど…
作品の持つ圧倒的な情報量、密度に圧倒され、がんばっても がんばっても ちっとも読み進まず挫折。全然飲み込めん!この種が!
深いテーマを持つ作品らしいのに、結局、一番心に深く残ったのはデュナンとヒトミのチョイ百合シャワーシーンという大変なさけない有様であった。
このOVA版『アップルシード』は、そんな頭の悪い私でも大丈夫!
バイオロイドヘイターのテロリストと、「ある理由」で彼に協力するポリスの隊員。
この2人が企む恐るべき計画に、デュナンとブリアレオスの名コンビが挑むというストーリー。
シンプルでわかりやすく、犯人に同情するタイプの倒叙ミステリーのテイストもあり、スリリングでグイグイ引き込まれる。
加えて、知略を尽くした二転三転する戦闘の面白さや、美しい作画で描かれた見応え満点のアクション、武骨なブリアレオスのカワイイ食事シーン&ウサ耳ピコピコのユーモアなどなどを随所に散りばめ、サービス満点で飽きさせない。
そしてクライマックス。
反目していた上官の肩を文字通り借り、恋人であり師でもあるブリアレオスの教えを胸に、ヒロインのデュナンがすべてをかけて挑む手に汗握るスナイプ!
監督&脚本の片山一良さんは、士郎正宗印のカッチョいいマニアックさは随所に残しつつも、非常にわかりやすく、カタルシス満点の、バランスの良い丁寧な良作に仕上げてくださっている。
もしかすると「わかりやす過ぎて、このアップルシードは食い足りん!」という方もおられるかもしれない。
しかし、わかりやすくてキチンと面白い作品を作るのは、難しい作品を作るよりずっと難しい!
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